目に青葉 山ほととぎす 初鰹

 

江戸時代中期の俳人・山口素堂が、視覚、聴覚、味覚から、初夏の江戸の人々の好みを俳句に詠んでいます。

 

季節を感じながら、旬の味をいただくことを大切にした江戸の人にとって、旬の走りの初鰹は高価なものであるにもかかわらず、盛りになり値段が落ち着くのを待つのは野暮というもの。

 

初鰹を食べることが江戸っ子としての粋だったのです。旬のものを食すことは新たな生命力を体に取り入れると考えられ、縁起が良いものとされています。

季節は初夏、二十四節気は立夏を迎えています。これから夏に向けて気温が高くなり、また、梅雨も迎えますが、その前の心地よく、過ごしやすい時期です。

 

七十二候は、蛙始鳴(かわず始めて鳴く)、蚯蚓出(みみずいずる)、竹笋生(たけのこ生ず)、と、続きます。眠りから覚めた蛙は水の張られた田んぼで鳴きはじめ、ミミズも冬眠から目覚めます。土中からは、この時期真竹のタケノコが出てくるころです。生命力に満ちた生き物たちが活発に動き出します。もちろん、その生き物の一部としての私たちにとっても、過ごしやすく、活動しやすい季節です。

 

水田には水が入り、早苗が植えられ始めました。芽吹きから時を経て、日々成長の勢いを誇示するような木々の緑は濃くなり、新しい季節の訪れを、目に痛いような緑色の重なりとともに、刻々と報告してくれているようです。音と同じように、色も時を知らせてくれます。

 

湿度の変化とともに、大気中の水蒸気の含有量により光の屈折は変わり、同じ色でも、時が違えば印象が変わってきます。また、一般的には、温度が上がることで、暖色系の色よりは、寒色系の色のほうが涼感を得ることができます。

さて、そこで、なぜ、「目に青葉」?緑なのに、青?なぜでしょう?実は、平安時代ごろまで、すべての色彩を表す言葉は、赤、白、黒、そして青、だったのです。

 

この4色は、「青い」というように、そのまま形容詞として活用できますが、平安時代後期以降に使われるようになる「緑」などは形容詞として活用することはできません。

 

それ以前は、紫や藍色から緑色もすべて、「青」で表現されたのです。また、「青」という色は、若いものや瑞々しいものなどを表現する際にも使われる色です。なるほど、それで、「目に青葉」なのです。

青という色が持つ印象は、爽やかさ、涼やかさ、海や空のような寛大さや、水のような冷たさ、などがあり、実際、青い色を見ると心拍数が下がるという効果もあり、冷静さを取り戻す心理効果もあります。

 

また、平和や信頼を象徴する色ともいわれています。

 

日本の青には、空色、藍色、群青色など、様々な色があります。

 

古代にはツユクサの青い色を染料としていましたが、その後、奈良時代にはシルクロードを経て、藍が伝来します。

 

そして、江戸時代には木綿の普及に伴い、色持ちの良さと、防腐効果などもあり、藍染が多く使われました。

 

藍の色はその発酵段階により、甕覗(かめのぞき)、浅葱(あさぎ)、鉄紺(てつこん)など、種類は40色以上あるそうです。

 

色そのものの変化もですが、その名づけもなんとも美しいものです。

さて、ガラスという物質の印象といえば、やはり、氷や水を思うような、涼しげなものが多いと思います。

 

そして、その中でも、青い色のガラスには特別な魅力があるような気がします。

 

私自身も一番好きな色は青色で、青いガラスを使った濃淡の組み合わせはお気に入りの一つです。

 

青いガラス越しに見る世界は、すっと、一呼吸落ち着いて、静かな場所となり、また、青いガラスを透して届く灯りは、その色の変化と屈折や他の色ガラスとの組み合わせで、様々な模様を見せてくれます。

 

もちろん他の色ガラスも同じように、美しい色模様を見せてくれますが、青いガラスを透す青い光は自然に見える物の反対側を見せてくれるような、ガラスの魔法世界が見えるような気がするのです。

そんな、ガラスの仕事も、今の季節は白い初夏の光の中で、来る夏を思い、青いガラスとの爽やかな時間です。

 

工房の周りは、木々たちの青葉のささやきに満ち、様々な緑色に囲まれています。

 

バラの花も咲き誇り、たくさん初夏色が目に飛び込んできます。

 

そして、日没直後、空は青紫に輝き、この色もまた、初夏の青。

 

夏を前にした一日、「目に青葉」を思い、初夏の色を楽しんでみてはいかがでしょう。

 

そして、ぜひ、夕飯には初鰹を召し上がれ。

 

染谷雅子

 

 

ガラス作家・アロマセラピスト 染谷雅子
ギャラリーはなぶさ https://www.hanabusanipponya.com
作品:海の中

作品:水玉