実りの秋到来　　　～　白露　～

2021.09.13

暦の上では秋とは言え…などと始まるのがこの季節の文章の常套ですが、今年は暦通りの秋気配。秋雨の時を迎え、あっという間に夏が去り、その後ろ姿に、まだ、やり残したことがまだあるのに、と慌てて、時の巻き戻しが叶わないことに寂しい思いです。もっと浴衣も来たかったし、花火もしていないし、水遊びもできなかった、静かな夏でした。

二十四節気は白露(はくろ9月7日頃)を迎えています。夜は空気が冷えて、草木に露が宿る時期です。そして、七十二候は、草露白(くさのつゆしろし9月7日～11日頃)、鶺鴒鳴(せきれいなく9月12日～17日頃)、玄鳥去(つばめさる9月18日～22日頃)と続きます。朝露が美しく輝き、冷えた空気の清々しさの中、長い尾を振りながら歩くセキレイの声は聞こえ、子育てを終えたツバメは南へ飛び立ちます。秋に向かうもの去るもの、清々しい空気の中で、穏やかな次の季節へ向かう落ち着きと、一抹の寂しさも季節の中に読み取れるような候です。

この時期、気温の低下により、つい、水分摂取を怠りがちになり、乾燥を感じることがあります。夏の暑さに疲れた体には、お茶など、暖かい飲み物を摂ることや、食事でもしっかり水分をとるようにしましょう。腸を潤すことは、蓄積された有害物質を体外に排出することになりますし、潤いある肺は抵抗力を高めることへつながります。美味しい果物や根菜が出回る時期になりますので、夏の暑さに疲れた身体を守りながら、実りの秋を楽しみましょう。

収穫の秋を告げる、ナシやブドウはそんな、水分補給や栄養補給にぴったりな果物です。ナシは水分含有量が高く、カロリーはほかの果物に比較すると低く、種類にもよりますが、オレンジやナツミカンと同じぐらいで、100グラムに付き41キロカロリーです。整腸作用が期待できるソルビトールが多く含まれるほか、体内の水分調整に働くカリウムも豊富です。ブドウは少しカロリーが高く、皮なしで100グラムにつき、58キロカロリーで、皮つきでいただくと69キロカロリーとなります。ただ、皮の部分に抗酸化作用の高いポリフェノールが多く含まれるので、皮つきで召し上がることをお勧めします。ビタミンやミネラルが豊富で、体の水分や腸内環境の調整、疲労回復や栄養補給など、季節の果物をその時にいただくことは、夏の疲れの回復と秋への体調準備を整えるという、正しい理由があるのですね。

子供の頃の思い出に、家族親族ともに、梨狩りに行った記憶があります。父の背中におぶられて手を伸ばし、大人たちが「それ、それ」と指さす良く熟したナシをもいだ時の、枝からから離れる時の音、その時手に感じた小さな振動とそのあとの重さ、びっくりして、瞬きして、その棚越しに四角く切り取られた少し曇った秋の空は、私の小さな戦いを見守ってくれていたようでした。小さな子供の手でつかめるほどの大きさでしたから、昔の和ナシの種類かと思いますが、何かをやり遂げた気持ちがとてもうれしかったのでしょう、食べずに叔父叔母祖父母にそのナシを見せびらかしたそうです。とても小さいころで、最も古い記憶の一つです。

最近は品種改良が進み、大きく、甘く、見目も美しい果物が多くなりましたが、昔食べた和ナシやブドウの素朴さや酸っぱさも懐かしい味の記憶です。

ここ数年は、知人がブドウ園を開園したこともあり、毎秋、ブドウを楽しんでいます。今年もすでに第一便が届き、藤稔や紅伊豆など、秋の実りをいただいています。まさに見目麗しく、宝石のようと形容するにふさわしい粒ぞろいで、今が食べ時です！と、ブドウたちが粒々に叫んでいるような美しさ。口に含めば瑞々しく弾ける果汁が溢れます。今年は雨が多く、果汁に含まれる水分が多いとのこと。なるほど、品種差や個体差に加え、その年々の気候変動にも左右されながら、自然相手の管理、栽培ということに改めて感心した、今秋です。

ブドウは枝から外して、冷凍保存ができます。ブドウが恋しくなったころ、シャーベットでいただくも良し、豆乳や牛乳と一緒にスムージーでいただくも良し、ぜひ、実りの秋をいろいろな形で楽しんでみてください。