すっかり秋めいたこの頃、彼岸が過ぎると、日が傾いたと思うとあっという間に夕暮れに。秋の日はつるべ落とし。この表現を知ったのは、もう何十年も前のこの季節、虫垂炎の手術のための入院時でした。母は夕焼けがまぶしい窓にカーテンを引きながら、その言葉の意味を説明してくれました。あー、なんて、素敵な表現なのだろう、と、国語を思った病院のベッドでした。
二十四節気は秋分(しゅうぶん9月23日)を迎えました。七十二候は、雷乃収声(かみなりすなわちこえをおさむ9月23日~27日頃)、蟄虫坏戸(むしかくれてとをふさぐ9月28日~10月2日頃)、水始涸(みずはじめてかるる10月3日~7日頃)と続きます。雷が激しい夕立のような雨は夏とともに去り、涼しくなり、虫や小動物たちは冬眠の準備を始め、稲の刈り入れもそろそろ終わり、田んぼの水を抜き、乾燥させる。そんな、自然気候の変化と、それに伴う、動物たちや私たちの生活変化を表す候となります。
夜の時間が長くなってくると、気温も下がり乾燥が進み、また、朝晩と昼の温度差も要因の一つとなり、肺にダメージを受けやすくなります。肺の機能が低下すると、免疫力が下がり、風邪をひきやすくなります。体を潤して、栄養価も高く、疲労回復効果などを期待できる果物や根菜など季節の食材を食事に取り入れましょう。
また、涼しくなってくると、初夏のさわやかな時期同様、秋の装いも楽しくなります。秋風を感じながらの、温かみのある秋色の組み合わせは、この恵みの時期とこれからの集いの季節の幸せを思い起こさせます。
そして、いよいよやってきた新米の季節です。一年の暦を巡り届く豊かな実りは、何千年と続いたこの国の歴史です。苗作りから収穫までは、4月頃から10月頃までですが、刈り入れ後から春までは土壌作りに費やされます。本当に一年がかりの作業なのです。
世界中で生産されているコメの種類は何十万種もありますが、最も生産量が高いのはインディカ米で、中国、東南アジア、アメリカ南部で消費され、細長い形が特徴です。世界の生産量の約2割となるジャポニカ米が日本で食されているもので、「炊く」という調理方法に最も適しています。そして、国内で生産されるコメの3割強がコシヒカリです。
水田の変化は季節の移ろいを伝えてくれます。冬、雪降り積もり凍てつき、枯れた田んぼは、春、耕運機が入り耕され、水が入り青空が映り、初々しい早苗が並び、初夏には、若苗が雨に濡れ輝き、真夏の日差しにその穂先をぴんと空に向け、みるみるその青さを増して穂を太らせてゆきます。そして、初秋にその穂は頭をたれ、美しい黄金の波を見せてくれるのです。お米として私たちの口に運ばれるまでは、目にもその美しさを伝えてくれる水田風景です。
おにぎりはお米の美味しさを楽しむ最上の方法の一つです。忘れられないおにぎりがあります。それは祖母のおにぎりです。最後に食べたのは学生の頃、妹と遊園地に行くときに持たせてくれたお弁当です。少し大きめのきちんと角のあるきれいな三角形で塩の加減といい、きっちり握られているのにほろりとほぐれる加減といい、妹と何でこんなに美味しいのかと、いろいろ考えた春の日でした。母のおにぎりは小さめ俵型で、やはり懐かしく、中身が多めの美味しいおにぎりでした。でも、祖母のそれとは違うのです。今でもあの味には巡り合えていません。きっと、皆、そんなおにぎりの思い出があるのではないでしょうか?
美味しいお米の季節です。たまにはお米のことを思って、お米自体を味わってみてください。「ご飯をよそう」という、この「よそう」は「装う」ことだそうです。「整える」「支度をする」などの意味がある言葉ですが、やはり、食事でも、お茶碗のご飯も食卓もきちんと装って、心を込めていただくことが実りの秋にふさわしい美味しい時間の過ごし方ですね。
秋の装いとお米の装い、美味しいものいっぱいで、お腹いっぱいになると、眠くなってしまいますが、そこは注意のしどころで、就寝前、3時間は我慢してください。そして、眠りやすい季節でもある秋の夜長、今夜もぐっすり休みください。
染谷雅子
ガラス作家・アロマセラピスト 染谷雅子
ギャラリーはなぶさ https://www.hanabusanipponya.com
作品名:装う秋リング