いよいよ季節は夏の入り口。二十四節気は5月5日には立夏(りっか)を迎えました。今年の大型連休、前半はまだ初春の肌寒さと冷たい雨で始まりましたが、いかがお過ごしでしたか?新年度始まりから一か月が過ぎ、環境の変化などの張り詰めた気持ちで体調を崩さぬよう、ゆったりと心も体もお休みになれていますように。
七十二候は、蛙始鳴(かわずはじめてなく5月5日~10日頃)、蚯蚓出(みみずいずる5月11日~15日頃)、竹笋生(たけのこしょうず5月16日~20日頃)と続きます。田圃ではカエルが鳴き始め、ミミズも遅ればせながら冬眠から目覚めて這い出してきます。その地面には、この時期、真竹の筍が出てくる…、そんな、足元の自然変化を表す候となります。
陽が沈む時間が遅くなり、まだ、そんなに暑くもなく、夕方の時間を楽しめるこの頃です。時には夕食の時間をゆっくりとって、夏に向かう心身をゆったりと開放しましょう。この時期の旬、豆類は様々な調理方法で楽しむことができます。スナップエンドウやソラマメなどは、少しの水で蒸したり、そのまま焼いたりしていただくのも美味しいですし、グリーンピースは豆ごはんやスープにすると、食材の栄養分も逃すことなくいただけます。そして、カツオもこの時期の旬。カツオはたんぱく質が豊富で、カロリーは肉より低く、さらに、ビタミンB群が豊富であるとともに、運動により分解された筋肉を補修する働きや疲労回復作用のある、バリンという必須アミノ酸が含まれています。旬の食材をいただいて体調を整え、控える梅雨の季節や夏の暑さに備えましょう。
目に映る緑も一日一日と深くなってゆき、薄い緑や濃い緑、いろいろな緑色が重なり、陽に反射して、雨が降れば一段と濃くなり、じっと見ていたら、草木が伸びるのが見えるのではないかと思うほどの青葉の成長速度です。庭の雑草もそう。草たちの気持ちとしては、「さーて、のびのびと伸びようかなー」、と、欠伸しながら背伸びをしてお日さまを見上げているのでしょうが、申し訳ない、こちらとしては、草刈の時間となります。猫の額ほどの庭ですが、この時期の草刈は本当に草が伸びる時間との格闘です。でも、草を刈った後の庭の匂いは良い匂い。初夏の匂い。強い香りはドクダミです。
ドクダミの特徴的な匂いは、アルデヒトやケトン、フラボノイド、フェノール化合物やタンニンなどが生成され、分泌細胞や腺毛から、寄生微生物などへの防御として分泌されているものです。でも花は十字の白い花で、葉の形も愛らしく、立ち姿はとても可憐で切り花としても飾りたくなる美しさです。
古くから、整胃腸や解毒、消炎作用などを民間療法に利用されていました。また、お茶や野菜として食されることもありました。現在は商業的に栽培されているもの、また、観賞用として栽培されているものあり、海外でも東洋のハーブとして人気があるそうです。
ドクダミの季節には、ドクダミウォーターを作ります。14世紀末にハンガリー王妃エリザベート1世の神経痛の治療薬として献上されたハンガリーウォーターというものがあります。ローズマリー成分をアルコールに抽出させたもので、「若返りの水」と言われ、その後70歳を過ぎた王妃に若い王子が求婚した、という逸話も残るチンキです。このレシピにドクダミを多めに入れて、作ります。ドクダミをぎゅっと瓶に詰め、ローズマリーやお庭のハーブ類、レモンの皮少々なども入れて、ウォッカやジンなどのアルコール度数の高いスピリッツを注ぎ、そのまま数か月、香りがすっかりアルコールに移る頃には、ドクダミの匂いも他のハーブと混ざって初夏の草刈後の夕方のような清々しい香りになります。それを、ローズやラベンダーなどのハーブウォーターで薄めて、スプレー容器に入れていつでもどこでも、シュッと、乾燥を感じた時や、少し日差しを浴びた時、虫に刺されたときにも使えます。それが私のドクダミウォーター。お好みのエッセンシャルオイルを追加しても良いですね。
そんな、昔からあるレシピの物語を生活に招き入れることで、季節の移ろいを感じる、という小さな幸せを楽しみたいですね。
さて、夢の中で王子様が現れるかどうか…、初夏の宵、今夜もぐっすりお休みください。
染谷雅子
ガラス作家・アロマセラピスト 染谷雅子
ギャラリーはなぶさ https://www.hanabusanipponya.com
作品写真は「初夏色バレッタ」