暦の上では夏も盛りに向かい、二十四節気は芒種(ぼうしゅ6月6日)を迎えています。この時期は、穂先に針のような芒(のぎ)を持つ穀類の種まきの頃となり、雨が多くなり、間もなく、梅雨を迎えます。七十二候は、蟷螂生(かまきりしょうず6月6日~10日頃)、腐草為蛍(くされたるくさほたるとなる6月11日~15日頃)、梅子黄(うめのみきばむ6月16日~20日頃)と続きます。木の枝などについている薄茶色の泡のような塊は、卵鞘(らんしょう)と言い、カマキリの卵が数百個入っていて、ここから小さなカマキリが次々と孵化してゆきます。水辺ではホタルが飛び交い、夕暮れには幻想的な景色を作り出します。そして、今年も青梅はたわわに実り、色づく、そんな候となりました。
雨模様が続くと、鬱陶しい気分になりがちですが、自然の成長を促す恵みの時でもあるのです。自然の一部の私たちも、そんな雰囲気を楽天的にとらえて、読書など、好きなことに時間を費やし、心の栄養を取り込みたいものです。
温度が高くなり、さらに湿気も多いこの季節は、体内にも余分な水分をため込みやすくなります。余分な水分は重さもあるので、体内を循環させるためにはそれなりの熱量が必要となります。そのため、基礎代謝の熱量が不足してしまい、さらに水の巡りが悪くなるという悪循環に陥り、体が疲れやすく、むくみや頭痛などの不定愁訴が出やすくなります。体内の水を巡らせることを意識した食生活をめざし、基礎代謝を高めましょう。
熱を抑えて利水作用がある、ウリやキュウリなど、ウリ科の野菜がそろそろ旬を迎えます。また、今が美味しいソラマメも水分代謝を高める作用に優れています。
そして、この季節、優秀な食材はやはり、ウメ。今年も梅の季節です。
去年も梅仕事を取り上げましたが、今年もやはり、梅仕事。
梅の実を、旬のこの季節に摂取することは、とても理にかなっています。まず、ウメの実の酸味を感じた時に出る唾液は、食欲を増進させ、活性酸素の毒を消す成分を多く含みます。そして、クエン酸やリンゴ酸にはカルシウムの吸収を促進する効果があるため、疲労回復や精神安定、安眠効果も期待できます。また、豊富に含まれるカリウム、鉄、ビタミンは余分な塩分を排出する作用があり、加熱することで発生するムメフラールという物質は、血流を改善する効果も認められています。さらに、クエン酸の抗菌作用は、食品に対するものだけではなく、腸内では胆汁酸との相乗効果で多くの悪性細菌に対しても抗菌作用が働くそうです。この時期の少し疲れた身体にぴったりの食材です。
食べ方もいろいろです。簡単に食べられる梅干は最強。暑いお茶に一粒落としていただけば、唾液で食欲増進、胃腸も元気に。また、温められることで血流改善、つまり、体内水分の均衡も保てるわけです。旬の野菜、前出のキュウリや、ソラマメの梅肉和えや梅味噌和え、旬の魚やお肉の味付けに加えても美味しくいただけます。いろいろ工夫して、この季節に効果的な、梅のエキスを取り入れましょう。
梅の季節になると、青梅一つ一つ、丁寧に焼酎で拭き、竹串を使ってヘタを取り、そっと大事に瓶に詰め氷砂糖を重ね、科学者のようにその瓶にお酒を注いで、毎日琥珀色に変わってゆく瓶を愛でている母や、梅干用に赤シソを塩漬けする母の姿を思い出します。まだまだ、母の境地には届きませんが、今年も頑張ります。去年は梅味噌をたくさん作りました。新たな梅の季節を目前に、先日最後の一匙を平らげたところです。今年もたくさん作りましょう。さらに、去年口にして、爽やかでおいしかった青梅のピクルス。こちらにも挑戦しようと思いっています。
ということで、今年も梅仕事。この原稿を書いていてもワクワクして、その酸っぱさを思うだけで唾液が溢れます。やっぱり、楽しい梅仕事です。
ウォッカで漬けた年代物梅酒をお供に、パジャマに着替えたこの時間です。ウメの力を拝借して、よく眠れそうです。
今夜もぐっすりお休みください。
染谷雅子
ガラス作家・アロマセラピスト 染谷雅子
ギャラリーはなぶさ https://www.hanabusanipponya.com
作品写真は「紫陽花」