すっかり秋の色に変わった空に、季節の移り変わりを認めざるを得ないこの頃です。大好きな夏との再会はまた来年、ここは気持ちを切り替えて、秋の歓びを楽しみます。二十四節気はいよいよ秋もさなかの、秋分(しゅうぶん9月23日)を迎えました。七十二候は雷乃収声(かみなりすなわちこえをおさむ9月23日~27日頃)、蟄虫坏戸(むしかくれてとをふさぐ9月28日~10月2日頃)、水始涸(みずはじめてかるる10月3日~7日頃)と続きます。昼と夜の時間がほぼ同じになる秋分の日を境に、夜の時間が長くなってゆきます。雷とともにやってくる夕立の騒がしさは去り、気温が低くなり、虫などの小さな生き物たちは土に隠れ、冬への備えを始め、黄金色に輝いた稲の田は水を抜かれ、刈り入れが始まる。何もかも活発に動いていた熱量の高い時は収まり、新しい季節へ動く大気の変化と、生き物たちの冬への準備や、同時に収穫の恵みの時を迎える、そんな、自然の変化の候となります。
気温の低下とともに、湿度も下がり、鬱陶しい汗をかくことも少なくなり、過ごしやすくなりますが、それとともに乾燥も進みます。夏の間、少し気を抜いていた、保湿の習慣を今のうちに心がけましょう。潤いを補い、免疫力を保つ食事を摂ることも大切です。実りのこの時期、夏の疲れから解放され、食も進むことと思いますが、糖質を多く摂ると、その代謝の過程で大量のビタミンB群を消費してしまい、心身不調につながります。糖分を欲したら、果物やドライフルーツなど、自然の甘味で補いましょう。
秋の果物、ブドウ、カキ、アンズ、リンゴ、ナシ、など、そのままいただくのはもちろんですが、煮物や和え物、サラダなどに食材の一つとして使うと、彩や食感も良く、適度な酸味と甘味が加わり、新しい味覚の発見になるかもしれません。
私の好きな、秋の果物おかずは、アンズと豚肉の煮込み、リンゴとジャガイモのポタージュ、カキの白和え、ブドウと春菊の胡麻和え、などなど。味覚と食感と想像力で、秋の食事を楽しみましょう。もちろん、つやつや新米とともに。
そろそろ、箪笥の中も秋支度。「この夏、このブラウス良く着たな」とか、「このワンピース着て行ったレストラン、美味しかったな」とか、「今年新しく買ったこのスカート、あの人元気かな」なんて、そんなことを思い出しながら、少しずつ衣替えです。
私は、ほとんど、自分で洗濯してしまいます。洗濯機のクリーニングモードを使って洗った、ひらひらした夏の洋服が、真っ青な秋空にふわふわと泳ぐ様子は実に清々しい景色です。それを、「たのしい夏をありがとう」と、きちんとたたんで、箪笥にしまう。と同時に、少し厚目で暖かい色の長袖のブラウスやセーター、スカートが、少し落ち着いた様子で登場です。そして、夏にはなかった出演者はコートたちです。
真冬のオーバーコートを着る前、肌寒い日はトレンチコートで外出が好きです。トレンチコートはカッコいい。トレンチコート姿の美しさは、やはり、「ティファニーで朝食を」のオードリー・ヘップバーンです。あの、ふんわりと着こなしたトレンチコートのキュッと細く絞められたウエストのベルト、可愛らしさと上品さの均衡が絶妙です。もちろん、彼女ですから。
憧れのトレンチコートを手に入れたのは、大学生の頃。アルバイトの給料をそのために貯めて、自力で買った、実は今も着ている、トレンチコートです。
世界中のファッション界で様々に手を加えられ、流行にかかわらず存在し続けるトレンチコートですが、その発祥を思うと少々複雑です。実は、トレンチコートの原型は、第一次世界大戦時にイギリス軍で生まれました。
20世紀に入り、戦闘機や戦車の出現や武器や火薬の進化により、それ以前の戦いとは違い、前線で体を晒して戦うことができなくなり、地面に溝を掘り、そこに身を隠しながら戦う戦法へと変わってゆきます。その溝=塹壕(ざんごう)、これを英語でトレンチ(trench)といいます。兵隊たちはその極寒地の塹壕内での雨や寒さで体力と精神力を奪われ、また、衛生面でも問題がありました。そこで、連合軍は素材の開発や仕立てを工夫して、改良を重ね、耐寒、耐水、そのうえ、戦いやすいコートを作り上げたのです。それが、トレンチコートです。ほぼ100年前から変わらない、取り外しができるライナーや大きな襟、沢山のボタン、ふたのついたポケット、不思議な金具がついているベルトなどは、そんな秘密があるからなのです。
世界中の服飾史に、戦争の影響と、戦うための合理性を追求することから発生する究極の形と、そこから派生する流行がある事実は否めないことです。
毎年、トレンチコートを着る季節になると、そのことを思いますが、特に、どれだけ平和な世に生きているか、ということを改めて考えたい、今年の秋です。
でも、今夜は新米たっぷりいただいたあと、秋物のサイズが変わっていないことを祈って、眠りにつきたいと思います。
今夜もぐっすりお休みください。
染谷雅子
ガラス作家・アロマセラピスト 染谷雅子
ギャラリーはなぶさ https://www.hanabusanipponya.com
作品名:「ブローチの季節」