時が経つのは速いもの、今年も春を迎えます。二十四節気は2月4日に立春(りっしゅん)を迎えました。七十二候は、東風解凍(はるかぜこおりをとく2月4日~8日)、黄鶯睍睆(うぐいすなく2月9日~13日)、魚上氷(うおこおりをいずる2月14日~18日)と続きます。氷を解かす東風が吹き出し、ウグイスの声が聞こえ始め、川や湖では氷の割れ目からは魚が跳ねる、いかにも心躍る、春の大気や生き物たちの様子を表す候となります。春とは言え、まだまだ寒いこの時期ですが、ひと時の休みもなく、季節は春へと向かっているのです。
暦を巡り始めて、3度目の春。五感を充分に活用して、季節を細やかに辿ってきたこの2年間、見て、聴いて、触れて、味わい、そして、思い出す香り…、気づかなかったり、忘れていたりしたことに、改めて触れた2年間でした。
そして思うことは、「食」の大切さ。「人は食べたものでできている」という、単純なことですが、言われるとちょっとびっくりしてしまう。その事実は実際の食生活に直結しているという認識が低いのかもしれません。ということで、新しい暦は旬の食材と、その食材を取り巻く逸話や思い出などを通して二十四節気を感じてみましょう。
暦とは裏腹に、平均最低気温は一番低いこの時期、颯爽と出かけるにはまだ寒く、つい、動くことが少なくなりがちですが、健やかな春を迎えるためには、滞りを解消することが鍵となります。季節の野菜や山菜をたっぷり摂って、ため込んだものをどんどん排出しましょう。なるべく温かいものを摂取することも効果的な方法です。春野菜をたっぷり使ったスープや、飲み物も温かい物を取り入れるようにしましょう。
暖かい飲み物で優しい印象のココア、はいかがですか?
ココアの原料となるのはカカオ豆で、チョコレートと同じです。そのカカオ豆が収まっているカカオポッドの収穫期は5月と10月頃となり、旬とは言い難いのですが、バレンタインデーを直前に控えた今、チョコレートが気になります。
カカオポッドの中にあるカカオ豆を発酵、乾燥させて、さらに、砕き、炒って、すりつぶしたものが、カカオマスです。ここまでの工程は、ココアとチョコレートは同じです。この、カカオマスから、油脂分のココアバターを一定量取り出したものがココア、また、そのココアバターをカカオマスに加え、砂糖や乳成分を加えたものがチョコレートとなります。日本では一般的に「ココア」と言いますが、ココアとホットチョコレートにはっきりした区別はないようです。
このチョコレート、歴史は古く、メソアメリカと言われるアメリカ大陸の中央部、現在のメキシコ南部を中心とした、アステカ文明やマヤ文明などの古代文明が栄えた地域で、紀元前2000年前頃からカカオ豆は使われていたという記録があります。紀元後アステカ文明では、カカオ豆は通貨として、また、神様への捧げものとしても利用されていたそうで、貴重な物であったことが計り知れます。
その後、ヨーロッパの侵攻により、スペイン、イタリア、フランスからヨーロッパ全土に広がり、さらに、北アメリカへと戻ってくるのです。日本では、18世紀長崎でオランダ商人から持ち込まれたものから、チョコレートの歴史が始まったと言われています。
メキシコ在住時、よくレストランへのブランチへ行きました。Desayuno(デサジュノ)と言われ、一般的な食事習慣です。そこで、いただくのがホットチョコレート。スペイン語でChocolate(チョコラテ)と言いますが、Chocolate con Agua(アグア=水)と Chocolate con Leche(レチェ=牛乳)があります。チョコレートをお湯で溶いたものと牛乳で溶いたものです。牛乳でココアパウダーを溶いたものがココアと認識していたので、このお湯で溶いたChocolate con Aguaの美味しさにびっくりしました。すっかり気に入ってしまって、家でもお茶代わりにいただていました。板チョコのように成型された、チョコラテ用のチョコレートはどこでも売っていて、専用の陶器のポットや木製の混ぜる棒も様々です。
街の市場では、チョコレート屋さんがたくさんあって、店先でカカオ豆を炒っていたり、チョコラテを提供していたり、幸せな香りが通りまで漂います。毎年、バレンタインデーの頃になると、思い出す雰囲気です。
カカオにはカカオポリフェノールが豊富に含まれていて、含有量は赤ワインの2倍と言われています。ポリフェノールの抗酸化作用はコレステロール値を下げ、動脈硬化を予防する働きがあります。また、苦み成分であるテオプロミンは脳を活性化して集中力や記憶力を高める働きがあると同時に、リラックス効果もあります。
また、チョコレートにはカフェインも含まれてはいますが、含有量はとても少なく、リラックス効果もあるので、砂糖の量を少なくして、ミルクを使えば、お休み前のひと時をゆったり過ごすお供に最適です。ぜひお試しください。
メキシコのチョコレートスタンドの香りや、あのタラベラ焼きのカップが唇にあたる感覚と、チョコラテの湯気の幸せを思い出しながら、そろそろ、眠りにつきたいと思います。
皆様、今夜もぐっすりお休みください。
染谷雅子
ガラス作家・アロマセラピスト 染谷雅子
ギャラリーはなぶさ https://www.hanabusanipponya.com
作品名:「ガラスのハート」