いよいよ春。3月6日、啓蟄(けいちつ)を迎えました。七十二候は、蟄虫啓戸(すごもりのむしとをひらく3月6日~10日)となり、桃始笑(ももはじめてさく3月11日~15日)、菜虫化蝶(なむしちょうとなる3月16日~20日)と続きます。凍えた大地は緩み、地中で時を待っていた生き物たちが戸を開き春の瞬きを享受する頃、桃の花は咲き、菜っ葉を食べて育った青虫たちはさなぎを経て、蝶々となり飛び立つ…。いよいよ、白黒の景色に魔法がかかって端から色づくように、春の息吹を感じられる、そんな候となります。
とはいえ、なかなか気温は安定せず、季節に身体を添わせることが難しいこの時期であるとともに、年度末となり活動範囲や環境の変化を伴うこともあるかもしれません。小さな気の崩れが、大きな体調不良へとつながることもありますので、忙しい日々の中でも、自分の身体や気持ちの小さな変調に気づく余裕を持ちましょう。
気分の切り替えや、取り巻く空気を換えたいときには、グレープフルーツがお勧めです。そのままでも、ジュースやサラダなど様々な取り入れ方がありますので、お好みでどうぞ。グレープフルーツが持つクエン酸の疲労回復効果やリモネンの神経緩和効果など、リラックスとリフレッシュ、相反するようですが、両方の効果が期待できます。
また、それらの有効成分は皮の部分から採取される精油にも含まれていますので、アロマディフューザーを使って、香りを楽しむことも気分転換には効果的です。
グレープフルーツやレモンなどは年中手に入りやすいですが、そのほかの柑橘類、伊予柑やポンカン、セミノールなど、国内産の柑橘類は2月~3月頃が出荷の最盛期です。旬の柑橘類を食生活に積極的に取り入れて、季節の変わり目を快適に過ごしましょう。
桃色?若草色?菜の花色?春の色、何色を思い浮かべますか?やはり桜や桃の花を思わせる、ピンク色は春色の代表色の一つでしょう。でも、それは日本人が日本の景色や経験から思う春色。色の常識はとても興味深いです。皆さんはレモン色と言ったら何色を思い浮かべますか?土色は?きっと私たち日本人にはレモン色は黄色、土色は茶色。ところが、メキシコではレモン色は緑色なのです。メキシコで一般的にレモンと言われているものは、日本でいうライムです。そう、緑色のライムです。だから、うっかり、「レモン色はいかがですか?」「いいですね」なんて言うと、緑色のブラウスが出てきちゃったりするのです。
同じように、アメリカ南部の砂漠地帯で、土色と言えばピンク色とオレンジ色が混ざったようなテラコッタ色のことです。くっきり青空にテラコッタ色の大地の組み合わせは心に残る強烈な対比色の景色です。そんな、環境による常識の違いは色彩感覚にも表れます。
実はアメリカに住むまで、カサットやサージェントに代表されるアメリカ印象派の絵画にあまり興味がもてませんでした。それは、何かあり得ないほどの、あっけらかんとした空気の様子で、ヨーロッパや日本の印象派の絵画のように、しっとりした光が描かれていていないような気がして、実感としてつかみ取れるものがなかったからです。でも、住んでみると、なるほど、空気がそうなのです。地域の差ももちろんあると思いますが、乾燥した、くっきりした空気に、高い濃い青色の空にどこまでも平らな地…、この空気を描くとこうなるのか、納得したのです。
それに気づくと、他の国でもその空気感が描かれていることがわかりました。それぞれの土地の、温度や湿度、取り巻く環境などを捉えて表現する、空気や光までも描く画家の眼の鋭さと的確さを認識しました。今は、アメリカの印象派絵画も大好きになり、その新鮮な色彩に空気感を思い出し、懐かしい気持ちになります。
そして改めて、日本の印象派画家の作品を見てみると、日本の四季の麗しさと、わずかに水っぽい、空気の水分量というか、その雰囲気までもが描かれている感じがして、これはきっと、日本人だからこそ受け取れるものなのでしょう。空気を知ってわかる色彩感覚、絵画も五感で感じる幸せの一つですね。
春の色は、やっぱり、桃色や桜色、菜の花の黄色、そして、若草色。そこにふんわりと少し水分量が多くなった空気の重さがある、わずかにくすんだぼやけた感じが日本の春の色だな、と思うのです。
そういえば、我が家のベッド回りのシーツ類はピンクのギンガムチェック。私の春は、けっこう近くにありました。まだ、少し寒さは残るけれど、春心地で眠りにつこうと思います。
皆様、今夜もぐっすりお休みください。
染谷雅子
ガラス作家・アロマセラピスト 染谷雅子
ギャラリーはなぶさ https://www.hanabusanipponya.com
作品名:「春の帯留め」