今年も残りわずか、暖冬とはいえ、朝夕の冷え込みは厳しくなりました。12月22日には一年中で最も昼の時間が短く、夜の時間が長くなる、冬至(とうじ)を迎えます。冬の真っただ中ではありますが、この日を境に、日は少しずつ長くなり、季節は春へと進むのです。七十二候は、乃東生(なつかれくさしょうず12月22日~16日)、麋角解(さわしかのつのおつる12月17日~31日)、雪下出麦(ゆきわたりてむぎのびる1月1日~5日)と、進みます。寒さが深くなるこの時期でも、水辺ではウツボグサが芽を出し、新しい角へと生え変わるために雄鹿の大きな角は時が来て地に落ち、雪の下では麦の芽が出る頃、そんな、寒さの中でも春の素がそこここに潜んでいる、冬の自然界の力強さを感じる候となります。
これから続く本格的な寒さに備え、しっかり体を作る時期です。きちんと食べて、適度に動き、しっかり睡眠を摂る、というあたり前のことを遂行するだけなのですが、この季節はなかなか思い通りには行きません。特に、食に関しては、忘年会など、人と楽しむ時間が多くなるこの季節、食事時間や摂取量が乱れがちです。せっかくの機会に体調管理を理由に忘年会を断るなんて、無粋なことはしません。そんな時には、大きな時間表で考えましょう。一日カロリー摂取が多くなったら、次の日はでんぷん質や脂質糖質の摂取を少し控える、また、そんな行事が続くときには、一週間単位で考えてみる、など、全体的にカロリー摂取量を調整して、体調管理をして行きましょう。
このクリスマス時期に、そんな悩みをさらに大きくするのが、目も心も奪われてしまう、クリスマスケーキ。デパートのお菓子売り場に行けば、ショーケースには「私こそは女王です」と言わんばかりに、麗しく、華やかに、そして、美味しそうな、ケーキがずらりと並びます。ピースカットしてあるもの、ホールのもの、クリスマスツリーや切り株の形をしたものなど…。それぞれのお菓子にそれぞれの物語があるような、たくさんの誇らしげな様が、豊かさと危うさの均衡をとるようで、心の中には少しだけ不安な気持ちもいます。
あらゆる世界のケーキが食べられる日本のお菓子事情です。最近は、イタリアでクリスマス時期に食べる習慣がある、Panettoneパネトーネが流行りのようです。11月、クリスマスの準備が始まると有名な惣菜屋から街のちいさな店にいたるまで、いろいろな大きさできれいな箱に入ったパネトーネが並びます。パネトーネ種という天然酵母を使い、卵、バターと細かく切ったラム酒漬けのドライフルーツが入っています。ちょうどこの時期、イタリア在中時にいただいたものは、薄く切ったパネトーネにサワークリームと生クリームのソースが添えられ、お供は赤ワインでした。なるほど、ミラノのクリスマス。ワインとよく合うクリスマスの味でした。
また、ウイーンのクリスマス準備時期、クリスマスのお菓子はStollenシュトーレンでした。こちらもラム酒に漬けた果物やナッツがたっぷり入った、ずっしりと重みのある、いかにも大事なクリスマス、といった感じのお菓子。こちらも薄く切って、生ハム、やチーズをのせて、そして、やはり少し甘めの赤ワインと一緒にいただきました。両方とも、それぞれ宗教を背景とする大事な行事を恭しく伝えるための、大事な習慣の一つとしてのクリスマスケーキでした。
私のクリスマスケーキはやはり母の味。夏過ぎると、リンゴやカキ、モモ、イチジクなどいろいろな果物をラム酒漬にして数か月後、クリスマス近くなると焼いてくれるフルーツパウンドケーキ。お酒に漬けた果物に火を通し、アルコールを軽く飛ばし、ローストナッツと共にパウンドケーキの中にたっぷり入れて、焼き上げるとすぐに、果物のエキスがたっぷり溶け出たラム酒をジュっとかけて、涼しい部屋に何日か置きます。そして、クリスマスには生クリームで飾って、いただきました。あー、懐かしいあの味。多分、外地暮らしでクリスチャンだった母のこと、若い頃に手に入れたレシピだったのでしょう。
他にも、バタークリームのケーキや少し硬めのスポンジのケーキなど、選択肢などほとんどなかった子供の頃のケーキでしたが、家族で過ごすクリスマスのとても幸せな味でした。挑戦してもきっと至らない母の味。そのまま記憶にとどめたくて、自分で作ろうとはなかなか思えないのです。心の中で大事にします。
さあ、今年もクリスマスが近づきます。嬉しいことや厳しいこと、いろいろなことがある日々ですが、とにかく、その日、皆で一緒に同じ場所で同じものをいただき、幸せを感じられることに喜んで、楽しく過ごします。
今年のクリスマス会、なにを作って持ってゆこうかしら?…わくわくはとまらないけれど、続きを考えながら、そろそろ眠りにつきたいと思います。 皆様、今夜もぐっすりお休みください。
染谷雅子
ガラス作家・アロマセラピスト 染谷雅子
ギャラリーはなぶさ https://www.hanabusanipponya.com
作品名:「フュージンググラスのクリスマスオーナメント」