今年の春は、毎日の目まぐるしい日和の変化に、ついてゆくのが精いっぱい。振り回されるように過ごしています。二十四節気は春分(しゅんぶん3月20日)を迎えています。七十二候は、雀始巣(すずめはじめてすくう3月20日~24日頃)、桜始開(さくらはじめてひらく3月25日~30日頃)、雷乃発声(かみなりすなわちこえをはっす3月30日~4月3日頃)、と続きます。雀は巣作りを始め、咲き始めた桜で景色は花色に染まり出し、その不安定な大気は春雷を呼び、遠くに雷鳴が聞こえる。そんな、春の霞んだ空気の様子とその中に生きる小さな命や植物の様子を表す候となります。 桜 昼と夜の長さがほぼ同じとなる春分の日。この日を境に夏至まで昼間の時間が毎日約8分ずつ長くなってゆきます。時間差に対する調整だけではなく、寒暖の差が激しいこの頃、温度差や空気の乾燥度合などにも身体が対応しようとして、交感神経の働きが活発になり体力を消耗することで、体がだるくなったり、疲労感を感じたりすることがあります。そのうえ、新生活への変化が加わることで、気づかぬうちにストレスで自律神経が乱れ、それらが重なり体調不良になることもあります。これらの不定愁訴は長引かせないようにしないと、五月病などの心の不調へとつながります。呼吸法などを取り入れて、自分の身体の声を聴いて、穏やかに過ごせるように心がけましょう。 新生活

我が家の庭でも、レンギョウは黄色い花房が目立ちだし、モクレンは産毛の生えた蕾のふくらみが大きくなり、スイセンが咲き、クリスマスローズは少し前からふさふさと白い花を咲かせ、ツバキは真っ赤な花を重そうに掲げています。今年もこの花々の季節がやってきました。どうしてもワクワクしてしまいます。今年もサクラに会えることも素敵。どんな景色が見られるのか、どんな花と出会えるか、その背景の青空の色は変わらず目に染みるだろうか…。花の景色は春の色、庭の様子は万華鏡を傾けるように、毎日キラキラと少しずつ変わります。朝一番のカーテンを開ける時の密やかな楽しみです。 クリスマスローズ そのカーテンを開ける少し前、目覚ましをかける日もあるけれど、自然に目が覚めるのは何かが呼ぶから。外から聞こえるこの音、何の音?人の声?工事じゃないし…、そうか、雀だわ。すごいんです。大きく育ったキンモクセイの木の丸く繁った枝の中、鳥達の集合住宅になっているようで、それは、それは、にぎやかです。彼らにも時間割があるようで、地面をしきりについばんでいる時間や、とても静かな午後もあります。でも、ここのところの、なにが起きているのだろう?と思うほどのさえずりは、春の眠りから目を覚まさせてくれる、自然の目覚ましのようで、まさに、金子みすゞの詩、「春の朝」の世界です。

 

花の景色が春の色なら、この雀の目覚ましは春の音です。 カーテン 自然の動物の中でも、どこでも見かけて、人の生活に最も近いと言えるこの雀たち、普段は気が付かないほど身近な鳥ですが、人とのかかわりが長いだけに、様々に表現されます。厄をついばむ=家内安全、一族繁栄、などの縁起物とされ、冬の寒さをしのぐために毛を膨らましてふっくらした姿は「ふくら雀」と呼ばれ、豊かさや幸運の象徴とされて、着物や帯の柄にも多く使われます。 ふくら雀

前出の金子みすゞの詩もそうですが、俳句や小説など、様々な文学にも登場する雀です。私は、源氏物語、第五巻「若紫」での雀が象徴的で大好きです。光源氏が、のちに紫の上へと成長する、若紫に出会う運命の瞬間です。まだあどけなく、童女ではあってもその麗しさが際立つ若紫が、大事に籠で囲っていた雀たちを放たれてしまい、泣いて憤慨している様子が描かれています。自然と共に籠の中で過ごしていた少女が違う世界へ羽ばたく瞬間が、抗えない力の作用によって籠から飛び立つ雀たちと重なり、これからの若紫の運命を想像させる、少しだけ寂しく、でも、色や音、香りまでもが感じられるような情緒のある美しい春の情景描写です。

籠

雀たちは、あの小さな体で仲間と寄り添い冬の寒さを越え、いま、季節を知り、新しい生命を繋ぐために精一杯さえずります。けなげに生きる小さな生き物達にとって、この春の日々、我が家のキンモクセイがお宿となるのは自然のこと。ほんの短い間、静かに見守り、その春の音を楽しみましょう。

 

明日の朝もあの声で目覚められるかしら…、そんなことを想いながら、そろそろ眠りにつこうと思います。

 

皆様、今夜もぐっすりお休みください。

 

染谷雅子

 

 

 

ガラス作家・アロマセラピスト 染谷雅子
ギャラリーはなぶさ https://www.hanabusanipponya.com
作品名:ステンドグラス「さくらペンダント」

染谷雅子のガラス作品「ステンドグラス さくらペンダント」