やっと咲いた桜をゆっくりと愛でる間もなく、春の嵐はまたたく間に花びらを散らせてしまいました。散る桜の美しさ、春風に乗って舞う花びら、花絨毯と化した大地や花筏の川面を今年の花見として、桜並木を歩きました。皆様の土地の桜はいかがでしたでしょうか?
二十四節気は4月19日に穀雨(こくう)を迎えます。七十二候は、葭始生(あしはじめてしょうず4月19日~23日頃)、霜止出苗(しもやみてなえいずる4月24日~28日頃)、牡丹華(ぼたんはなさく4月29日~5月4日頃)、と、続きます。夏への入り口を前に、恵みの雨は大地に沁みこみ新しい命の準備を促します。水辺のアシを芽吹かせ、すでに霜が降りることもなくなり、稲の苗はすくすくと育ち、夏の訪れを告げる華やかなボタンの花が咲く、そんな、晩春の自然界の様子を植物の世界から感じられる候となります。
夏を前に、日中は過ごしやすく、穏やかに過ごせているつもりでも、体は、毎日目まぐるしく上下する気温に追いつくことが精いっぱいで、もしかしたら、危機信号を発しているかもしれません。一日の気温差が7℃以上になると、不調が出やすいと言われています。頭痛や肩こり、食欲不振、不眠など、たいしたことがないと思っていても、その蓄積は徐々に体の負担となります。また、温度差があるとはいっても、真夏や真冬のように動くことが億劫になるような温度ではありませんので、つい、予定を詰め込んで食事が不規則になったり、薄着になる前に少し厳しい減量に挑戦したり、という方もいることでしょう。食事時間や回数、摂取栄養の不均衡も体調不良の原因につながります。この時期、栄養バランスのとれた食事を心がけることで、心身を健康に保ち、夏を元気に迎えることへと繋がります。 憶えていますか?食事の三大栄養素。アミノ酸から成り立ち、骨や筋肉、臓器を構築する、たんぱく質(4kcal/1g)。神経組織、細胞膜、ホルモンなどを構成する脂質(9kcal/1g)。糖がつながったもので、消化吸収されてすぐに脳や身体のエネルギー源となる炭水化物(1gあたり4kcal)。それぞれの摂取量の目安は、たんぱく質=13~20%、脂質=20~30%、炭水化物=50~65%、となります。一日の食事でこの摂取量をバランス良く配分することが大切です。思いのほか、炭水化物の量が多いような気がするかもしれませんが、この栄養素は体を動かすことだけではなく、脳への唯一のエネルギー源となるので、脳を使い考えることへのエネルギー補給となり、とても重要なのです。炭水化物を極端に減量する食事療法は、体力の減衰だけでなく、脳への栄養をも遮ることになり、さらに重大な体調不良へつながる可能性もあるのです。
日本人にとって炭水化物摂取方法としての代表が、主食としての米となります。最近はコメ離れの傾向と言われますが、稲作文化の歴史は我々の体に記憶を残し、やはり日本人の体質や習慣には米食が合っています。
米ができるまでには88もの工程があり、その字は八十八から作られているとも言われます。3月に種を蒔き作られた苗は、この時期に育てられ、田圃では田植えの準備が始まります。立春から88日目の5月1日は八十八夜、農業の重要な時期となり、初夏の農作業がはじまる頃となります。ちょうどその頃から、田植えが始まり、7月~8月の成長、熟成期を過ごし、9月に収穫となります。子供の頃、その工程と農家の努力、結果として、大事に食することの大切さを食事の準備をしながら祖母に教えられました。今のように保温ジャーなどありませんでしたので、炊き上げた米を濡らしたおひつに移し、乾燥しないように、固く絞られ、ぴんと広げられた布巾をふんわりとその上に乗せ、食事の時を待ちました。その布巾の真っ白さを思い出しました。 早苗から刈り入れの時まで、季節ごとのそのすべての景色の美しさも稲作から享受できるものです。秋、黄金に光る波の景色は素晴らしいものですが、この時期、水を張られた田圃に青空が映り、そこに小さな稲の苗がきれいに並んでいる様子は本当に清らかで美しいものです。大好きな場所があります。川沿いの水田の並びで、どんなに忙しく、季節の移ろいに気付かぬほどの時にも、その景色の色合いの変化は、時の確実な移ろいを教えてくれるのです。ところが、その大事な場所が土地開発により少しずつ形が変わってきています。懐古主義ではありませんが、どこまでも続くような土手沿いのあの田園風景は懐かしく、便利さと裏腹に差し出さなければならない物もあるものだと、また気づくのです。 さあ、そろそろ眠りにつこうと思います。その前に、明日のご飯の準備をして…。タイマー炊飯で保温もできる炊飯ジャーを前に、ちょっと祖母に申し訳なく思います。今夜は早苗緑のじゅうたんが風になびく景色でも夢に見られたらいいな…。
皆様も、ぐっすりお休みください。
染谷雅子
ガラス作家・アロマセラピスト 染谷雅子
ギャラリーはなぶさ https://www.hanabusanipponya.com
作品名:ステンドグラス「ガラスのスワッグ」