昼間の時間が長くなり、活動的になるこの頃ですが、雨の季節も目の前。二十四節気は芒種(ぼうしゅ6月5日)を迎えています。麦や稲の穂をじっくり観察したことがありますか?穂に細い針のようなとげがチクチクと並んでいます。そのとげのことをノギ(芒)と言います。そのノギを持つ、イネ科のムギやオオムギの種を蒔く時期が到来したことを告げています。七十二候は、螳螂生(かまきりしょうず6月5日~9日)、腐草為蛍(くされたるくさほたるとなる6月10日~14日)、梅子黄(うめのみきばむ6月15日~20日)と続きます。梅雨入りも控えたこの頃、雨の日が増え始め、鬱陶しい気分にもなりますが、自然界では万物が雨露の恵みを受け、カマキリは羽化し、水辺ではホタルが舞い、ウメの実は黄色く色づく。本格的な暑さを前に、活き活きとした昆虫や植物の営みを表す候となります。
窓を伝う雨粒や雨だれの音を恨めしく思いながら、家の中で過ごす時間が増えるこの頃ですが、それも貴重な時間です。外出していてはできないことをして、屋内で自分を大事にしてあげる時、と思えば梅雨時の過ごし方も変わります。ただ、運動不足が続くと、体内に余分な水分が溜まって、かえって疲れやすい状態になりがちです。水分が溜まり代謝が悪くなると、血流の巡りも悪くなり、体内に充分な栄養回らず、心身の不調へと進む場合もあります。また、肥満や精神的な不調につながることさえあります。正しい水分の摂取量や摂取方法を知り、家の内でできる、簡単な筋力トレーニングやストレッチも取り入れて、雨の季節も爽やかに、晴れやかに過ごしましょう。
季節の変化が私たちに示してくれる兆しにはいろいろなものがあります。時を告げる春雷、花の匂い、明日の晴天を教えてくれる夕焼けの色、桜が咲く頃の春風や冬を迎える木枯らしの肌触り、などなど…。そして、雨が降る前の匂い。感じたことありますか?実は、この独特な匂いには名前があるのです。ペトリコール(Petrichor)と呼ばれます。ギリシャ語で石を意味する「ペトラ」と、ギリシャの神々の血管の中を流れていたとされる「イコル」に由来しているといわれ、「石のエッセンス」という意味を持ちます。ペトリコールは植物が放出して地面に吸収されていた油の成分が湿度の上昇によって鉄分と反応して発生する物質の匂いです。風が変わって、少し空気が湿っぽくなってこの匂いがしたら、それは、雨が降る合図。でも、この匂いは、雨が降り始めると消えてしまいます。ペトリコールに対して、雨上がりの匂いはゲオスミン(Geosmin)です。こちらは土中のバクテリアなどによって作り出される有機化合物で、カビ臭のような匂いで、雨水によって拡散されます。湿った森の中に入った時のような、いわば「大地の匂い」。
「雨が降る」という気象状況も、そんな小さな兆しを見つければ、楽しめることもあります。体や心の感知器の精度を少し上げて、「石のエッセンス」と「大地の匂い」を探し出し、五感で雨を感じてみてください。
その雨の中、麗しく咲き揃う花は日本が誇るアジサイです。アジサイ(学名Hydrangea macrophylla)は日本原産の落葉低木の一種で、西洋アジサイと区別するために、ホンアジサイとも言われます。原種はガクアジサイです。手毬咲きとも言われる、丸く咲くホンアジサイは土壌の酸性度によって花色が変わります。酸性の土では青みが強くなり、アルカリ性の土では赤みが強くなります。ハイドランジアは日本に逆輸入された西洋アジサイです。18世紀後半にドイツ人医師シーボルトなどによって持ち帰られ、品種改良が行われました。学名はハイドランジア オタクサ(Hydrangea otaksa)と言います。シーボルトは日本滞在中、楠本瀧(おたき)という女性を愛し、学名の「otaksa」は「おたきさん」を指していると言われています。ホンアジサイが青く咲くのに対して、西洋アジサイは品種改良によりオレンジ色やピンク色に大きく咲き華やかです。
雨に濡れる紫陽花はキラキラとその花と葉の色のコントラストも艶やかに咲き誇ります。これも、梅雨の季節の楽しみの一つ。
本格的な夏の暑さを前に、水の時をお楽しみください。
今年はたくさんの蕾をつけた我が家のガクアジサイ「江戸の花火」。明日はいくつ咲くかな…、朝が楽しみ。そろそろ眠りにつこうと思います。
皆様、今夜もぐっすりお休みください。
染谷雅子
ガラス作家・アロマセラピスト 染谷雅子
ギャラリーはなぶさ https://www.hanabusanipponya.com
作品名:「フュージンググラス 紫陽花ブローチ、ペンダント」
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