暦では秋の気配が深くなり、夏の名残の湿った大気は、夜温度が低くなることで、朝方には露となり草木に宿る頃。二十四節気は白露(はくろ9月7日)を迎えます。でも、実際は、気象観測史に残るようなノロノロ台風に付き合う長月(ながつき)の始まりとなり、残暑はまだ続きそうです。七十二候は、草露白(くさのつゆしろし9月7日~11日頃)、鶺鴒鳴(せきれいなく9月12日~16日)、玄鳥去(つばめさる9月17日~21日)、と続きます。朝、少し冷たくなった空気のなか、白い朝露が木々の葉っぱや草花に宿り、セキレイのさえずりに気づき、高くなって青さが増した空には子育てを終えたツバメが南へ飛び立ってゆきます。そんな、涼しくなってゆく秋の空気の中、鳥達の習性を表す候となります。 秋の気配が濃くなり始め、真夏の太平洋高気圧は移動性高気圧へと変わるため、大気は一転して湿度が低下します。そして、夏の間に受けた紫外線や冷房によるダメージは肌のバリア機能を低下させます。結果、肌や髪の乾燥を招くことになり、皮膚疾患へと繋がることもあります。毎日の肌や髪のお手入れに、保湿を取り入れましょう。化粧水のフェイスパックや入浴時のオイルヘアパックなど、手軽に取り入れられるものを工夫して、これから迎える本格的な空気の乾燥に備えましょう。 残暑が厳しいとはいえ、一雨ごとに夏のほてりは少しずつ後ずさり、朝夕には時折吹く冷気を含んだ風に、ふと秋の訪れに気づくのです。寂しいような嬉しいような…。空気中の水蒸気量が減ることで、視界がはっきりとして、音もすっきりと聞こえるような気がします。昼の時間は短くなり夕焼けに染まる夕方は早く始まり、夏の名残の様々な緑色を隠すように夜の気配が近づきます。この9月の始まりは新月となり、静かな夜空でした。 今年の中秋の名月は9月17日となります。中秋の名月とは旧暦の8月15日の月のことで、実際の満月と一致するとは限りません。近年、たまたま、中秋の名月の日と満月が同じ日となっていましたが、今年、満月は翌日、18日となります。 中秋の名月は、古来農業の行事と関連して、「芋名月」などと呼ばれることもありますが、他にも日本の月を表現する名前は美しく、風情があります。曇りなく澄み切った満月を表す「明月(めいげつ)」、欠けることのない月の意味を持つ「望月(もちづき)」、など。「望月」は、平安時代、藤原道長が「この世をば 我が世とぞ思ふ 望月の 欠けたることも 無しと思へば」と詠んだ和歌でも知られていて、自身の世の繁栄と美しい満月の様子を重ねた歌で、その栄華と慢心がうかがわれます。 満月以外の月の呼び名も麗しいもので、三日月のほかにも、月令13の十三夜月(じゅうさんやつき)、満月前夜の小望月(こもちづき)、次の夜、十六夜の月(いざよいのつき)、続く月令17、18、19の立待の月(たちまちのつき)、居待の月(いまちのつき)、臥待の月(ふしまちのつき)、下弦の月を過ごし、左側に細く見え、夜明けの空に昇る月を有明の月(ありあけのつき)、など。日本人の言葉へのこだわりと豊かな感受性は文学的で素敵です。 北米では月毎の満月に名前がついています。たとえば、2月の満月は寒く雪の多い天候に由来して、Snow Moon、3月は春の訪れとともに小さな虫やミミズなどがうごきだすことから、Worm Moon。5月、季節は春から初夏へと動き花が豊富に咲くことからFlower Moon、7月は雄鹿が新しい角を生やす時期、Buck Moon、8月はチョウザメ漁が盛んな時期であることから、Sturgeon Moon、そして、9月は収穫期を迎える時期で、Harvest Moon。続き、10月は狩猟に適した時期として、Hunter’s Moon、12月は、冬の寒さを示して、Cold Moon、などなど。これらの名前はネイティブアメリカンの文化や自然との深い関わりを反映しています。これって…、数年に渡り、この二十四節気を巡る旅にご同行いただいている方はお気づきでしょう、二十四節気や七十二候が示す日本人が持つ、自然と共に暮らすことにより得られる、鋭い観察目と自然に対する畏敬の念は、ネイティブアメリカンが持つものと似通っているということです。地球の生物として生きる私たちの感性は共通しているのだと強く感じるのです。次回の満月の夜には、ぜひこれらの名前も思い出しながら夜空を見上げてみてください。 日本ではこれからの季節に冷たい空気の中に輝く月を「青い月」などということがありますが、英語のBlue Moonは1ヶ月に2度満月を迎える現象で、約2年半に1度の割合で観測されます。Once in a Blue Moonという英語慣用句は「めったにあり得ない、珍しいこと」という意味です。 月が教えてくれる、自然の移ろいと人の文化や文明、生活習慣の伝承の歴史が、すーっと心に沁みます。と同時に、今や人は月へ行く時代。普通に行き来する日が来るのかしら、月は怒ってないかしら、なんて…、この秋の月に訊いてみたいと思います。きっと、Once in a Blue Moonで、Just a Paper Moon。 そんなことを妄想をしつつ、そろそろ眠りにつこうと思います。 皆様、今夜もぐっすりお休みください。
染谷雅子
ガラス作家・アロマセラピスト 染谷雅子
ギャラリーはなぶさ https://www.hanabusanipponya.com
作品名:「ステンドグラス キャンドルホルダー」
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