夜が始まる時間が確実に早くなり、季節の動きを知り、さて、冬に向かっているはずなのですが、いまだ、真夏日を迎える日もあるという、なんとも不思議な神無月です。二十四節気の暦は、冷たい露が草木に輝く頃、寒露(かんろ10月8日)を迎えています。七十二候は、鴻雁来(こうがんきたる10月8日~12日頃)、菊花開(きくのはなひらく10月13日~17日頃)、蟋蟀在戸(きりぎりすとにあり10月18日~22日頃)、と続きます。空気が澄み渡り、夜空には月や星がくっきりと見えるようになり、大気の冷たさが沁みる頃、冬鳥たちが北から冬を過ごすために帰ってきます。菊の花は美しく咲き、秋の虫たちは夕方の戸口で涼やかな音を奏でます。冬への誘いを、動物や植物たちの営みが知らせてくれるようです。 菊の花

夏と違い、季節違いに温度が高くなっても、大気中の水蒸気量は少なく、秋が深まるにつれて、空気は乾燥します。夏のように温度が高く汗をかいている自覚があれば、積極的に水分補給を心がけますが、涼しくなってくるとつい怠りがちになってしまいます。これから更なる気温の低下と共に乾燥も進み、その影響は皮膚や髪だけではなく、食道や肺の損傷につながることもあります。でも、水分の摂り過ぎは、夏のように体の代謝が活発ではないため、体内に水分を停滞させることになり、むくみの原因になります。来る冬に備えるためにも、食材や時間帯などを考慮して、体に潤いをもたらす食事を心がけると良いですね。 水分補給

長袖のブラウス一枚で過ごせるこの時期が好きです。真夏は暑さに翻弄されて、袖なしを着てしまったり、Tシャツだけで過ごしてしまったりと、機能優先になってしまいますし、冬は、オーバーやコートなどを着てしまいます。そう、長袖ブラウス一枚で軽快に涼風をうけ、布が風に揺蕩う(たゆたう)様子は、まさに装う秋。 特に、絹は滑らかな肌触りで、袖を通した瞬間のヒヤリとする高慢さと、すぐに肌になじみ体温に寄り添ってくれる柔和さ、相反するものが同居しているような魅力的な布です。植物を食べて育つ小さな生き物が、自分の体を使い成長の証として外界から自身を守るために作り上げる障壁から紡がれる糸、それが絹です。だから、きっと、絹の糸は自然の知恵や規則や摂理なども一緒に紡がれるのでしょう。自然の賜物です。そんなことを、この季節に絹のブラウスに袖を通すと思います。 長袖のブラウス

さて、群馬県にある富岡製糸場、ユネスコの世界文化遺産に登録されて早10年経ちますが、この秋、やっと訪ねることができました。 暑い日でした。稼働当時には空調施設どころか初期のころには電気さえない工場に、蒸気の力で巨大な製糸機器を稼働させて、太陽の光を頼りにできるように設計された工場内で自然の時間に沿って、品質を守るため作業はすべて自然光の中で行われていたそうです。どんなに大変だったことかと思いました。 富岡製糸場

明治政府がうち立てた殖産興業計画の一環として、生糸の生産力向上を目指し官営の模範工場として設立された富岡製糸場はフランスの工場に準じた製糸方式や労働規則を取り入れ、フランス人指導者の下、伝習工女として500人以上の10代から20代の女子が集められました。この時代の女工物語というと、「野麦峠」や「女工哀史」などを思い浮かべてしまいますが、それらに先んじて、国営の模範事業として近代的工場であると同時に、最新技術を学ぶ職業訓練校でもあったので、就労形態もフランス式で、伝統的な日本の労働形態に比べるとはるかに近代的な物でした。その恵まれた環境の中、工女達は製糸技術を学び、その後それぞれの地で指導者として活躍したのです。 この工場は一大輸出産業となった絹糸の生産を支えたのち、官営としての働きを終え、民間に払い下げられ、その後の絹産業の衰退を経て、昭和62年(1987年)に操業を止めました。 製糸

日本の産業の行く末を賭けた、富岡製糸場115年の歴史の中、何度も海外資本の流入の危機がありましたが、その都度、政府や経営者の賢明な選択により海外資本に変わることはありませんでした。また、聡明で理知的な工女達の働きにより、築かれる女性の社会進出の礎もこの工場には残ります。すべて、官吏として、技術者として、女性として、そして、なにより日本人としての矜持を強く持って、新しい世界に挑んだ人々の歴史です。この人たちの矜持が今の私たちの生活を創り、社会を支えてくれたのだと、小さな繭から生まれる絹糸の力に心からの感謝の気持ちを想った旅でした。 繭

富岡製糸場で働いた武士の娘の記録、和田英著「富岡日記」(ちくま文庫)は枕元の友となっています。自分も将来の日本人に、矜持を持った何かを残せるのかしら?なんて…、秋の夜長に思いながら、そろそろ、眠りにつきましょう。

読書

皆様、今夜もぐっすりお休みください。

 

 

染谷雅子

 

 

 

ガラス作家・アロマセラピスト 

染谷雅子 ギャラリーはなぶさ https://www.hanabusanipponya.com

作品名:「フュージンググラス ブローチ」

染谷雅子のガラス作品「フュージンググラス ブローチ」

 

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パジャマに着替えて…秋の日の「冬景色」