春の訪れが早かった今年は、引き続いて、花々の開花も早く、フジとツツジの満開が4月に同時と珍しい所や、ネモフィラやチューリップも同時で、皆が春の必須構成要素の一つであることを主張するように、楽しそうに咲き誇っています。
また、気のせいか、サクラもそうでしたが、花の色が濃く、自然が春の時をいつもにも増して声高に謳っているように感じます。
きっと、社会活動が緩み空気がきれいになり、人里に下りてきた動物たちと同じように、植物たちも、人まばらな春の空気を楽しんでいるのではないでしょうか。
二十四節気は春の最後となる穀雨(こくう)を迎えています。
七十二候は葭始生(あしはじめてしょうず)、霜止出苗(しもやみてなえいずる)、牡丹華(ぼたんはなさく)と続きます。
水辺のアシは芽吹き、すでに霜が降りることもなく、穀物を潤す恵みの雨で稲苗は育ち、初夏へと季節をつなぐように華やかなボタンが咲きだす、そんな季節です。
さあ、いよいよ、準備運動は終わり、手足を伸ばし、充分に活動する時が来ました。
酸素や栄養を体の隅々まで届け、生命を支える血液の巡りを円滑にする為にも、充分な睡眠と適度な運動を心がけましょう。
前回コラムでも触れましたが、外出ついでなどの散歩はその目的を果たすのにちょうど良いですね。
さらに、水分補給にはハーブウォーターなどを加えると血流の滞りを避ける助けになります。お勧めは血流改善効果があるという、ハイビスカスや月桂樹の葉を使ったものです。
冬の静の世界から、夏の動の世界へ移動するこの時期、自然の変化は景色だけでなく、音も変わります。
温度や湿度の変化で、空気中の音の響きは変化します。
音は、温度が1℃上がると、その進む速さは秒速0.6m速くなり、高い音として耳に届き、また、湿度が高くなれば、音は空気中の水分に乱反射するので、伝わりが遅くなります。
だから、冬の屋外の音ははっきりくっきりと聞こえますが、暖かくなると、ぼんやりしてきます。
世界が動き出すと、新しい音が生まれます。
春の音を聞いてみましょう。
春の雨の音、風の音、水が流れ出し草木が潤い、かさかさと音を立てていた枯れ葉の音はさわさわと若芽がそよぐ音へ、そして、虫の羽音や鳥たちの囀り。時には激しい雨音や、強い風の音もあるけれど、真冬の寒々とした音とは違って聞こえるのは、この、温度や湿度の変化があるのですね。
そんな、春の音を楽しんでみてください。
春の力は音楽の世界にも及びます。
クラシック音楽を聴くと、血圧の安定や、安眠効果があることはすでに承知のことですが、人の脳への作用も明らかで、記憶力が良くなるなどの脳の機能が増すという、研究結果が出ています。
春を謳い、春を連想する曲はたくさんあります。
ヴィヴァルディ作曲「四季」の春、シューベルト作曲ピアノ5重奏「ます」、モーツァルト作曲弦楽四重奏曲第14番「春」、ヨハン・シュトラウス2世作曲「春の声」、シューマン作曲交響曲第1番「春」や、ベートーヴェン作曲交響曲第6番「田園」も晩春から初夏にかけての景色が目の前に広がります。
聴きながら、春の映像やその喜びが、次々と浮かぶ曲ばかりです。
なかでも、小さいころからバイオリンと一緒に過ごしてきた私の春のお勧め曲一番は、ベートーヴェン作曲「スプリング・ソナタ」です。
春の訪れを喜ぶだけではなく、初夏から夏への憧れや、自然の驚異を待つ恐れをも含め、時の楽しみが音の一つ一つに満ちている音楽です。
そして、今日の私は、スプリングソナタを聴きながら、いただいたタケノコの皮をむき、下準備をして、外からは鳥達のさえずりが聞こえる、という、まさにこの幸せ晩春の午後。
自然に身を置いて、受け身で浴びる春の音を聞くことと、積極的に自分で選ぶ春の音楽を聴く、この「聞く」と「聴く」の両方を使い、身体と脳の両方に良い刺激を与えて血流を巡らせ、残りの春と、夏へ向かう日々を今日も楽しみましょう。
染谷雅子
ガラス作家・アロマセラピスト 染谷雅子
ギャラリーはなぶさ https://www.hanabusanipponya.com
作品:通り雨