様々な門をくぐり、春がやってきます。二十四節気の最初の節気、立春(りっしゅん2月3日)を過ぎました。
とはいえ、春は名のみの風の寒さで、まだまだ冷たい空気に身をさらされる日々です。
温かい東風が吹き始め、氷を解かし始める頃、東風解凍(はるかぜこおりをとく2月3日~7日)、春告げ鳥とも言われるウグイスが鳴き出す頃、黄鶯睍睆(うぐいすなく2月8~12日)、温かくなる大気により割れ始める湖や川の氷のあいだを、産卵のため移動し始めた魚たちが飛び上がるさま、魚上氷(うおこおりをいずる2月13日~17日)、と続く七十二候は、寒さ残る中でも、東風吹く空には春を知らせる鳥は鳴き、氷が解け始めた川面では魚が跳ねる、そんな、静かに始まる季節の動きを表す候となります。
春の訪れとは裏腹に、この冬最強寒波の襲来により所によっては警報級の大雪に見舞われ、ここ関東でも週末には雪が降ると予想されるほどの寒さとなりました。
こんな時、身体は寒さから身を護るための態勢に入ります。
体温を逃がさないよう毛穴が閉じてしまい、血液の循環が悪くなってしまうので、体内老廃物が溜まりやすくなります。
春を待つ体を作るために、旬の食材を取り入れて、老廃物を排出しやすい体を目指しましょう。
この時期お勧めの旬野菜は、ニラ、菜の花、セロリ、芽キャベツ、カブなど。芽キャベツはこの時期、店頭によく並んでいますね。
栄養価がとても高く、ビタミンⅭ、ビタミンB2、βカロチンなどが豊富に含まれています。
熱による栄養価の損失も少ないため、シチューや温野菜サラダの色添えなど、とても重宝します。お試しあれ。
さて、五感で受け取る季節の変化、今までの暦の旅で様々な感覚と出会うことができましたが、今回は耳を傾けることで暦を巡ってみようと思います。
二十四節気、お勧め、というか、その季節に聴きたくなるような、または、聴いたことがる、思い出がある、そんな曲たちで紡いでゆきたいと思います。
立春を迎えたこの時、これから始まる一巡りの最初に、選んだ曲は、ハンガリー王国出身、ヨーロッパで活躍したピアノ演奏家であり作曲家、フランツ・リストFranz Liszt(1811~1886)の作品、交響詩「レ・プレリュード Les préludes」です。
交響詩とは音楽形式の一つで、一つの楽章のみで構成されている管弦楽曲のことです。
物語や詩、絵画などの非音楽的な主題に基づき、その音楽を通して主題を表現します。リスト以前には標題音楽と言われていた形式から、リストが発展させ確立したものと言われています。
ピアノの魔術師と言われたリスト、10歳ごろには多くの人から奨学金を受け、ピアニストとしての才能を発揮しますが、15歳で父親を失い、彼がピアノ教師として家計を支えることになります。
ピアノの才能のみならず、見目麗しかったため、恋多き青年時代を過ごしたようです。
43歳の時に発表されたこの「レ・プレリュード」は前奏曲の意味で、ラマルティーヌの詩「Meditations Poetiques」に触発された作品で人生の様々な場面を音楽で描写しています。
大きく流れる主題は「人生は死への旅である」という哲学で、愛と苦悩、戦いと勝利、平和と幸福など、人間の経験や感情を表現しています。
本来、ラマルティーヌの詩は音楽的で美しいリズムと音韻が特徴で、リストが音楽で表現する際に、大きな影響受けたと考えられています。
さて、この曲との出会いは、今を遡ること数十年前、まだ二十代のころで、アマチュアオーケストラ活動も始めて数年経った頃でした。
初めて出会った、リストの管弦楽曲でその壮大さに感動しました。
静かな導入部から、弦楽器の分散和音に乗って奏でられる管楽器の荘厳な始まりから、
第2バイオリンが奏でる愛のテーマに寄り添う第1バイオリンの血脈のように流れ沿う伴奏、そして、激しい戦いを通り抜け勝利へ到達し、導入部と同じ主題に戻る、およそ17分の劇的な曲に若い心はすっかり魅了されました。
そして、40年以上の時を経て、つい先日終わった演奏会で、久しぶりに弾きました。もちろんそれまでの間、曲を聴いたことはありましたが、聴くと弾くのは大違い。
更に練習でも半年ほど付き合うわけですから…。それはそれは、たくさんの発見がありました。まずは、こんなに難しかったかしら?でした。
しかし、なんと能天気な若い頃だったのでしょう。あの頃はその壮大な人生を巡る主題の存在を知らなかったので、曲の持つきらびやかな魅力に心酔しただけだったのでしょう。
何倍もの日々を過ごし、苦悩、失望、損失、離別などの言葉の意味を、実際に通り抜け、知った今の私に与えられる勝利や愛や平和の主題のかけがえのない尊さ、心地良さ、大切さは、全く違ったものとして心に残りました。
齢を重ねる賜物ということで。
私には、曲に対する思いも新しいこの「レ・プレリュード」、元気な春始まりの前奏曲として、いかがですか?ぜひ、聴いてみてください。
眠りにつくとき、目覚めるとき、素敵な音が聴こえますように、ぐっすりお休みください。
染谷雅子
ガラス作家・アロマセラピスト 染谷雅子
ギャラリーはなぶさ https://www.hanabusanipponya.com
作品名:「フュージンググラス リング」